今回は、沢登りもしくは源流釣りでのザイル確保と装備の記事にしてみました。
険谷や大滝のある沢を遡行する場合、滑落の危険や不安が常に伴います。こういった不安を払拭する為に、クライミングの本やジムで勉強してザイル技術を身に付けると効果的です。遡行の幅も広がるので、慣れてきたら積極的にクライミング技術を取り入れることをお勧めします。
ここでは、私が沢で使用している装備を紹介します。
また、ザイルやクライミング器具の使い方は別ページで扱う事とし、ここでは器具の紹介だけにします。
スリング
スリングとは
細引きをリング状にしたもの。40〜200cm位の長さのものを2〜4本位持ちます。セルフビレイやザック滑落留め、懸垂下降時の支点など多用途に使います。
自作と既製品
切り売りしている細引きから自分で作ることもできます。しかし、自作だと結び目により、使用中に引っかかって少しストレスになります。既製品は縫い付けてあり、結び目を極小にしているので、既製品がおすすめです。
左:自作、右:既製品 結び目の大きさがこれだけ違います。
素材
素材はナイロンとダイニーマがありますが、軽量とコンパクトさで、ダイニーマ製がオススメです。
このダイニーマは化学技術の進歩によりできた新素材で、ナイロンの4倍の強度を持ちます。また、軽いので水に浮き、摩擦抵抗も少ないので絡みにくく、スリング用途としては、とても使いやすいです。
左:ナイロン、右:ダイニーマ ほぼ同じ長さ、強度だけど、これだけ太さが違います。重さも50g、16gと1/3の軽さです。
纏めてカラビナに取り付けたところ。嵩張りがこれだけ違います。
長さ
経験的に60cmと120cmの2種類が使いやすいです。お助け紐的に使えると思い、240cmも持っていますが、あまり使ってません。
所有品
上:マウンテンダックス ダイニーマ・スリング 6mm幅 60cm 16g 22kN
下:マウンテンダックス ダイニーマ・スリング 6mm幅 120cm 31g 22kN
kN は耐荷重でキロ・ニュートンの意味です。物理で習った通り、1kg重≒9.8Nの為、約2200kgの重さに耐えられることになります。
ベアール ダイニーマ・スリング 6mm幅 240cm 60g 22kN
上:DMM ナイロン・テープスリング 2cm幅 60cm 49g 25kN
下:自作 ナイロン・テーブスリング 1cm幅 90cm 28g
上:SINGING ROCK ナイロン・テープスリング 2cm幅 52cm 50g 25kN
下:SINGING ROCK ナイロン・テープスリング 2cm幅 73cm 64g 25kN
クルクルとネジって折り返すと棒状になるので、このようにカラビナにぶら下げて持ち運びます。
お助け紐
お助け紐とは
ザイルは長いので、繰り出したり、束ねたりするのに時間がかかります。
沢では2〜5mの崖や急斜面を降りたりすことが多く、このようなちょっとした確保の為にザイルを使っていては、タイムロスが尋常でなくなります。このような場合、お助け紐(5〜10m程の細引き)を使います。
実際、ザイルよりもお助け紐の使用頻度が圧倒的に多いです。
自作と既製品
切り売りしている4mm〜6mmの細引きを使うのが一般的ですが、沢登り用品店の秀山荘から既製品が出ています。使いやすい工夫が施され、非常に便利です。
素材
スリング同様にナイロンとダイニーマの選択肢があります。スリング同様ダイニーマがオススメです。
長さ
10m位がちょうど良いです。
所有品
切り売りしている細引き 6mm×10m 246g
秀山荘 お助け紐(ナイロンテープ) 2cm幅 9.1m 298g
片側はループに、もう片側はデイジーチェーンになっています。テープ状は握りやすいです。
秀山荘 お助け紐(ダイニーマ) 1cm幅 9.1m 220g
初代お助け紐はナイロンテープでしたが、このダイニーマ製が出て、そのコンパクトさに驚き、即購入。ナイロンテープ同様、末端はループとデイジーチェーンになっています。
秀山荘の製品は色々と持っているのですが、この10年位で企業の身売りが続き、今ではここのオリジナル製品は手に入りにくくなっているようです。日本で唯一の沢登り用品店だったので、寂しい限りです。若いころ池袋の店舗によく行ったものです。
並べて比較すると、こんな感じです。
ザイル
種類
ザイルにはスタティック・ロープとダイナミック・ロープがあり、前者は伸びず、後者は伸びるようになっています。伸びるように作っているのは、滑落時の衝撃をザイル自身に吸収させる為で、クライミングの世界では、落ちることを前提としたダイナミックロープが基本となります。
しかし、沢では落ちることを前提とした登り方を普通しないので、スタティック・ロープでも大丈夫です。懸垂下降などはスタティック・ロープの方がやりやすいです。
素材
ザイルは伸びるのが前提なので、ナイロンしか発売されていません。
ダイニーマは伸びない為、ザイルとしては不向きな素材です。また、ダイニーマの弱点として、熱に弱い(融点が低い)ことが挙げられます。懸垂下降をするとエイト巻が摩擦熱で火傷をするほど熱くなりますが、ダイニーマだと融解する可能性があります。
さらに、ダイニーマは摩擦係数が低いので、ディセンダーで制動力を得にくいという弱点もあります。
長さ
20〜60m。太さは8mm〜11mmまでが使われます。クライミングの世界では、ツインまたはダブル・ロープは8mm、シングル・ロープは9〜11mmを使います。このようなクライミング・ロープは40〜60mのものが一般的で、20mのものは補助ロープと呼ばれたりします。
所有品
エーデルワイス ヒルウォーカー 8mm×20m 1,040g
エーデルワイス ディスカバー 8mm×40m 1,760g
ケブラーロープ 5.5mm×28m 625g
8mmザイルは重くて嵩張ります。しかも、持参しても使わない場合もあったりします。この為、如何にコンパクトにするか?課題としていました。
そこで見つけたのが、このケブラー・ロープです。ダイニーマ同様、伸びる素材ではありませんが、沢でのザイル使用は懸垂下降がメインなので、伸びる必要性は殆どありません。また、ダイニーマと違い熱に弱くないので、これなら懸垂下降ができます。ちなみに、ケブラーはナイロンの2倍の強度があり、5.5mの太さで、ナイロン8mmと同等の強度があります。8mm×40mの1/3、8mm×20mの1/2の重さで、ザックの中をザイルが占有しなくなりました。
これだけ、大きさが違います。
ただし、ケブラー・ロープをザイルとしてつかうのは裏技的な使い方なので、あくまでも自己責任の元で使用する必要があります。
ハーネス
ハーネスとは
腰(ベルト)と両足(レッグループ)に括りつけ、ザイルと自分の身体を結ぶ為の装備です。
所有品
秀山荘 スワミベルト 140g
初期はこのスワミベルトを使ってました。レッグループがないので、垂直の懸垂はこれだと辛い。
秀山荘 ウォーター・ハーネス 270g
レッグループが付いており、クライミング用途には適しませんが、その分軽量化されています。
ペツル アジャマ 416g
クライミング用なので、クッション性もあり、とてもしっかりした作りです。
ちなみに、技術の進化でハーネスは驚異的に軽くなっています。これは、なんとSサイズで120g。これは凄い。
カラビナ
カラビナとは
カラビナの用途は多岐にわたりますが、下記にざっと上げてみます。
・ザイル連結
・セルフビレイをワンタッチ化
・ディセンダーの制動確保
・ハーケンとザイルを繋ぐ
・クライミング用品を纏める
ロック機構
カラビナは、ロック機構付きとそうでないものがあります。また、ロック機構は、ワンタッチ式とスクリュー式があります。
所有品
カラビナもいつの間にか沢山貯まってきました。
左:ペツル オーケー・スクリューロック
右:ペツル オーケー
お気に入りは、ペツルのオーケー。非対称でないところが使いやすいです。
ディセンダー
ディセンダーとは、ザイル下降する為の器具になります。代表的なものにエイト環があります。
左:ブラックダイアモンド スーパーエイト
右:DMM エイト環
ペツル ルベルシーノ
懸垂下降やビレイ、セカンド確保に使用できます。コンパクトで、細いロープでも制動が効くので、とても便利です。ルベルソという後継品が出ており、今は販売されていません。
ペツル シャント
懸垂下降のバックアップに使用します。
コング チュイ
ビレイ器具ですが、ディセンダーとしても使用できます。
ハンマー
ハンマーセット一式
左:ハーケン・ホールド
中:ハンマーホルスター
右:ハンマー
一式をバラすとこんな感じです。
MIZO CHICO 310g
超軽量ハンマー。ハンマーセットはその重さから、持って行くときに迷いますが、これを手に入れてからはそんなに迷わなくなりました。また、ピックは高巻きや泥壁の際に突き刺して登ると、有効なホールドになります。
ハーケンを打っていると、打ち損じて壁から落ちてしまうことがあります。場所によっては、回収不能になるので、これがあるとハーケンを無くさないで済みます。
ハーケン
ハーケンは軟鉄製とクロモリ製があります。
軟鉄製は岩の亀裂に合わせてハーケンそのものが変形して刺さります。クロモリ製は硬いので変形しません。この為、軟鉄は使い回し不可、クロモリは使い回し可能です。右上の黄金色のが軟鉄で、それ以外はクロモリです。
持ち歩く時は、このようにカラビナに纏めます。
ヘルメット
ペツル エクランロック 445g
今は売っていない、完全ハードシェルのタイプです。最近のは軽量化の為、発泡素材に表面だけハードシェルを覆ったものが多いですが、この完全ハードシェルタイプはシェルだけで構成されています。
ドカヘルと変わらない見た目ですが、値段が高いだけあって、クライミングのUIAA規格を満たしているのはもちろん、装着感がものすごい良いです。完全ハードシェルだけあって、重いのが難点です。
ちなみに、技術の進化で最新のヘルメットも驚異的に軽くなっています。なんとS/Mサイズで160g。う~ん、これは欲しいかも。
前回、「沢でのザイル装備」の説明をしましたが、ここでは使い方の説明をします。 ただし、ここでは軽量化を最優先している為、クライミングの技術を部分的に取り入れているだけであることに注意ください。本格的な登攀をする場合はザイル選びや道具[…]
前回、「沢でのザイル確保について その1」の続きになります。 ここでは、登攀やトラバースの技術を記載しています。事前に本や講習会等で技術をしっかりと身に付けてからでないと危険なので、あくまでも自己責任の元、参考にしていただければと思[…]