朝日連峰・八久和川・中下流部

  • 2021年3月22日

前回、「朝日連峰・八久和川・上流部」の記事で書いた通り、その翌年に中下流部の遡行を行いました。

八久和の強烈な印象をいつまでも忘れることができず、次はこの八久和中流域の広河原で竿を出したいという衝動にかられる日々が続きました。夏季休暇をすべて費やし、1年越しの綿密な計画の末の釣行です。

本来なら完全遡行を目指したいところですが、休日の取れる日数と、この時点での自分の遡行技術では厳しい所です。カクネ沢を超えて、広河原で釣りを楽しみ、茶畑沢か小国沢くらいまで行き、八久和の中下流部を味わおうという計画です。

釣行記

日時:2008/9/10(水)~9/13(土) 前夜発3泊4日
経路:高安沢先車止め~フタマツ沢~横沢~カクネ沢〜広河原〜長沢~芝倉沢~小国沢手前~高安沢先車止め
天気:晴れ

1日目

仕事の終わりの帰宅後、準備しておいた荷物を車に積み出発(21:45)。首都高〜東北道〜山形道の長い道のり。給油の為に寒河江SAに入りましたが、スタンドが24時間営業ではありません。山に行くときはコンビニの営業時間も含め、東京近郊の感覚でいてはいけません。

月山ICで高速を降り、鶴岡まで出てガソリン補給。その後、タキタロウ伝説の大鳥川沿いを車で上がります。途中、八久和ダムへの分岐で曲がり、ひたすら車を進めます。

2日目

車止め着(6:50)。ネットでの事前情報通り、高安沢の先で車止めのようです。自宅を出てから、ここまで約9時間。仕事終わりに寝ないで夜通し運転し、これから八久和に向かうという体力は30代だからこそ。今の体力ではもう無理。

車止めで身支度し出発(7:50)。

暫くは、明瞭な踏み跡があります。

ムカゲ沢(9:16)。何回か沢を横切る。

9月なのでキノコが大量に。キノコの知識はほとんど無い為、スルーします。いつかキノコの知識を身につけたい所です。

フタマツ沢(11:23)。

最初のポイントであるフタマツ沢出会い上にある徒渉点(11:23)。水量が多いと、ここの渡渉ができないとのこと。ここ数日雨が降っていないのに、どえらい水量と広い川幅(対岸まで40m前後)。

写真の通り、恐ろしい位の透明度のせいで、水深を見誤ります。手前の石の先に足を踏み入れたら、腰上の深さがあり、慌てて引き返す。

昼食としてコンビニおにぎり3つ食す。GPS電池交換も行う(満充電したはずがエネループが放電?)。

改めて、渡渉ルートを検討。結局一つ前の写真の左奥の一番浅いと思われるルートで渡渉。それでも腰上の深さがあり、八久和の水の太さに早くも圧倒されます。

対岸に渡ってからは、暫く右手に八久和を眺めながら、快適な道を進みます。それにしても、凄い水量と透明度です。

ゴルジュっぽくなってきたので、右岸のヤロウ平へと上がり再び踏み跡を辿ります。歩きやすい道が続くが、横沢出会い付近から、踏み跡が不明瞭になってきました。

ベンノウ沢(13:13)。ベンノウ沢付近で、ルンゼを下り、一旦川に下りる。しばらく川沿いに行き、踏み跡に戻るルートを探す。何とか登れそうな、ビミョーなルートを取り、再び踏み跡に戻るが徐々に踏み跡がなくなり、水面から40~50m上の断崖絶壁をトラバース気味に上下して行く。

ここらへんになると、踏み跡の足場が片足分位しかなく、踏み外したら途中で止まれず、谷底に一気に落ちてしまう状況が続く。しかも、こんな緊迫する状況が1時間も続いたのでこれまでの体力消耗もあいまって、かなりテンション落ちる。

カクネの広河原(14:51)。ようやく落ち着ける空間に到着。右岸にカクネ平という台地があり、ここに幕場を設ける予定でしたが、カクネ平と河原は30~40m程の崖で繋がっており、簡単に登り降り出来ない地形となっていました。

仕方ないので、広河原で釣りをしながら、幕場を探します。川のコンディションの違いだと思いますが、前年の奥の広河原より、岩魚の反応が悪く、型も小さい。

広河原が終わり、長沢を過ぎた右岸に砂地の理想的な幕場を発見。水面との高低差は1mだが、これだけ開けた河原なら、増水にも耐えられます。近くに岩清水も湧きだしており、薪も沢山あり、最高の立地です。

前回はツェルトで雨がキツかった為、少し重くなるけど今回はドームにしました。設営後、夕まずめの釣りに出かけます。

ここ数日は雨が降っておらず、薪が乾燥している為、すぐに火が大きくなります。盛大な焚き火で、岩魚の塩焼き。

塩焼きに、ご飯・ベーコン・味噌汁が今晩の夕食です。焚き火の前で、焼酎を片手に地図を眺めながら、明日の遡行に思いを馳せます。

3日目

明方に少し雨が降る。初秋の朝日連峰、想像していたより気温は落ちない。アミノ酸のサプリを飲んでるとはいえ、さすがに昨日のハードな1日の筋肉痛は出てきてしまっている。特に太ももと腰周り。

テント内でインスタントの塩ラーメンを食す。地図を見ながら、本日の遡行の戦略を立てる。

八久和では尺上が普通に釣れるので、普段の関東近郊のサイズ感が狂ってきます。

長沢先の屈曲点。八久和の中でも、特に記憶に残っている素晴らしい景色。

これだけの源流域に、これだけの規模の砂場。悠久の大自然に圧倒されます。

そして、抜群の透明度。

柴倉沢出会い。行きはスルーし、帰りに寄ることとします。

三百間沢出会い。

アメマス形の岩魚。先程の岩魚は茶系でしたが、八久和ではこのグレー色のアメマス系が多いです。

この先の瀬で、根掛りをはずそうとしたら、7.1m竿のリリアンが抜ける。6.1m竿に変えたら、これも同様にしてリリアンが抜ける!?あれ~。これまで何年も釣りしてきて、2回連続は初めて。山神の怒りがついに落ちたか?
こういった場合はガムテープが有効なのを経験している為、冷静かつ迅速に穂先をガムテープ補修し、続けて釣り上がります。

ゴルジュ状になってきた為、高巻きをします。

ハナホウキダケ。高巻きの途中で発見。後で調べたところ、ホウキダケ(食)とハナホウキダケ(毒)があり、これは後者のようです。

高巻きで川に降りる際に、お助け紐を使用。垂直な泥壁状のルンゼとなっており、帰りの上りに苦労しそうな為、お助け紐を残置。

栃木沢出会。ここの風景もお気に入りの一つ。水と岩と小滝の調和のとれた景色です。

この景色を眺めながら昼食。朝炊いたアルファ米に「ふりかけ」をかけ、味噌汁と合わせます。時間のある時は、これに岩魚の刺身も加えたりします。

その後、高巻きをし沢に降りた頃GPS紛失に気がつく。
この3~4年GPS抜きでの山行は考えられなくなり、今回は唯一の時計でもあった為、大いに焦る。どこでなくした!と必死に記憶をめぐらせます。
栃の木沢出会いの昼食場まで空身で戻る。せっかく高巻きしたのに、ここの往復は精神的に辛いが、GPS確保はなんとしてもしなければならない。栃木沢に戻ったが、ない、ない!でも、確かにここでGPSと地図で位置確認した!とすると…川の中を眺め回すと、あったあれだ!
見事に水没しており、大慌てでとりに行く。良かった故障していない。
防滴性能なのに、30分以上もの水没に耐えてくれたGARMIN製GPSの耐久性に感謝する(後でログ見てわかったのだが、水中では衛星を捉えないみたい)。

何とか折り返しますが、ゴルジュ状が続きます。予定では小国沢まで行きたかったのですが、ゴルジュが更に厳しくなってきます。時間的にも厳しくなったきた為、ここで折り返すこととしました。

帰りは、柴倉沢に寄っていきます。すぐに小滝があり、滝壷に竿を出す。

可愛らしい岩魚が姿を見せてくれました。勿論、リリース。

明るいうちに幕場に戻ることができました。

焚火と岩魚の塩焼き始めます。塩焼きというより、徹底的に燻すことにより、燻製に近い状態にします。

河原の砂浜で横になって、焼酎を飲みながら、焚き火を眺め暫くボーっとする。広河原でのキャンプ最高です。岩魚の塩焼きは、強火&遠火で長時間焼き、燻製的な作りとする。燻すほど水分が抜けて、濃い飴色になっていきます。

岩魚の刺身、岩魚の塩焼き、味噌汁、ベーコン、おこわ。初めてアルファ米の「おこわ」食べたけど、結構おいしい。

そして、気合を入れて作った岩魚の塩焼きというより、むしろ燻製。
焚火の煙で燻して水分を完全に飛ばすと、翌日のおやつにもなります。

4日目

いよいよ最終日。朝露で周囲は湿っています。テントの中で、コーヒーを飲みながら、帰りのルートと時間読みをする。

テントを撤収し、ザックに詰め込んだところ。出発します。

広河原と横沢の出会い。

長沢。広河原の終わり付近で長沢が合流します。支沢は滝やそれなりの段差で出会う場合が多いですが、本流同様ほぼ水平で出会っています。

それにしても、水が綺麗です。

カクネ沢。いよいよ、これから断崖絶壁のトラバース道が始まります。

途中、可愛いキノコに癒されます、

カクネ沢~ベンノウ沢の踏み跡、いわゆるカクネ道から八久和川を見下ろす。

山合いは、こんな感じです。

ベンノウ沢を過ぎ、行きと同じルンゼを登り、ヤロウ平の踏み後に戻る。
来たときの経験から、カクネ沢~ベンノウ沢の踏み後が一番の核心と考えていたので、大分ほっとする。もう恐怖はなく快調に進む。一度歩いているので安心感があります。残る懸案は、体力の消耗による遡行ペースの低下だけだ。と思っていたら…なんと、股間左で「股ずれ」を起こしてしまっている。下りはいいのだが、登りでキリキリと絞り上げる痛みが発する。

ようやく、車止めに到着。体力の消耗が尋常でなく、車に残した板チョコに食らい付く。

八久和川峠の鱒渕林道。行きは真っ暗だったので、帰りに写真を撮りました。この道が土砂崩れで、先に行けないという情報がありましたが、今回は大丈夫なようでした。大鳥の集落に出ると携帯の電波が通じるようになり、会社の後輩からネットワークトラブルの報告を受ける。

車を走らせ、かたくり温泉 ぼんぼに到着。
温泉につかり、疲れ切った体を癒す。
股ずれが相変わらず痛く、我慢できそうにないので、温泉のフロントで薬局の場所を尋ねる。この唐突な質問に店員の人は焦りながらも、東北らしい実に親切な女性で、自分の父親に連絡までして探してくれました。「おどっじゃ、あすこの★×薬局まだ空いでっがな?、んだ鶴岡まで出んど厳しいんだなや。」と目の前で電話してたのに、自分に説明するときは丁寧な標準語だったのが可愛らしかった。地図も書いてくれました。

教えてもらった大型ドラッグストア(鶴岡市街はでかい)で、ムヒαを購入し、車の中で患部に塗る。せっかくここまで来たので、そばを食べたいと思い、iphoneで探す。

そば処三浦屋。天ぷらそば大盛りを食す。古民家をお店にしており、田舎に来たような雰囲気がとも落ち着きました。

総評

とにかくスケールがでかく、水が圧倒的に透明で、釣れる岩魚がデカイ。雄大な風景、ブナとミズナラの原生林、透明な水、尺岩魚、大きな焚き火、砂地の河原。原始からの悠久の大河での釣り&キャンプは夢の世界にいるようで、遡行後日常生活に戻っても1週間位はその感覚が体に残っていて、心は八久和に残して来てしまった感じでした。

「また、八久和に行きたい。」が、一方で、遡行も常にそうでしたが、この遡行記を書いているうちに、改めてその八久和の厳しさの恐怖が蘇りました。
全体的に言えば、「地獄80%、天国20%」こんな感じでしょうか。これだけ遠い険谷となると、3泊4日に占める割合は、メインとなる釣りの前後に、車の運転9時間、登山9間が片道だけでかかります。しかも登山は12〜14kgの荷物を背負っての登り下りです。もちろん、その為の遡行技術向上や装備面での考慮、綿密な計画は行ってきましたが、いかんせん普段はフツーのサラリーマンなもんで、体力の消耗は尋常じゃありません。

写真は穏やかなものばかりですが、写真を撮る精神的な余裕のあるところだから撮れてるのであって、延々と続く踏み後、恐怖の崖上トラバース、ルンゼの上下、激流渡渉は写真どころではありません。本当はこういう瞬間もリアルに取れると臨場感があっていいんですが。

思えば苦労ばかりでしたが、それでもその先にある天国を目指し、次を求めて行くのが源流釣師なのだと思います。

これまでの沢行の中で、八久和は最高の思い出の一つです。いつかは、今回行けなかった小国沢・茶畑沢の中流部も遡行し、前年起点としたウシ沢まで繋げてたいものです。